前号まで15回に亘って『親子間のトラブルを招く3つの要因』、即ち
1.引き継ぐものの本質が正しく理解されていないこと
2.譲る側、継ぐ側両者の“肚括り(はらぐくり)”ができていないこと
3.親子間の会話が質的に希薄になってきたこと
について考えて参りました。そして、その要因を回避するための要諦を、
(1)引き継ぐもの(経営)の本質は、「信用」と「理念」であると心得る
(2)譲る者は、自らの心情・本心を偽ることなく、
後継者に後継の肚括りをさせるという経営者の使命を全うする
(3)継ぐ者は、「感謝の気持ち」をベースとした「使命感」に基づき、
自らの最大の強みである「客観視力」を活かし切る覚悟を持つ
(4)お互いに徹底的に「派無し」をする
ことと整理致しました。
そこで今回からは、具体的に何を実施していけば、事業“昇慶”が実現できるのかを考えて参りたいと思います。そのポイントは次の5つにまとめられます。
1.会社の歴史を振り返る(自社の「信用」の源泉を知る)
2.経営理念を共有する
3.引き継ぐもの(人脈、資産、商品・サービスの本質)を明確にする
4.引き継ぐ時期を明確にする
5.スムーズな昇慶を実現するための体制を構築する。
1)役割分担を明確にする
2)後継者サポート体制を構築する
3)後継者を計画的に育成する
そこで今回より、これらのポイントをひとつずつ詳説して参りたいと思います。
【1.会社の歴史を振り返る “私の履歴書”のススメ】
ここでは、第一の視点について考えてみたいと思います。
私は事業承継のお手伝いをする際、現経営者の方に必ず「“私の履歴書”を書いてください」とお話しします。日本経済新聞の文化面(最終面)に著名人が執筆されている、あの原稿です。「それほどの人生じゃないよ」と苦笑されることが多いのですが、実はこの取り組みが非常に重要なのです。
実際はなかなかお書きいただけないので、結果として私がヒアリングしながらまとめていくこともあるのですが、その際に後継者の方、幹部(候補)の方に同席していただきます。現経営者が創業・後継されて以来の社員の方であれば、何もこのような時間を設ける必要性は低いのかもしれません。しかし、後継者や若手幹部は「今が当たり前」で、その今がどのように構築されてきているのか、そのことがわかっていません。そこに認識のギャップの種があります。また後継者や若手幹部が自社の成り立ちを知ることで、今のありがたさを知り、より一層会社に愛情を寄せるきっかけつくりにもなるのです。ベテラン幹部の方の中には、かつての苦労と情熱を思い出し、涙ぐまれることもあります。その姿は実に感動的で、「あの涙で覚悟が決まった」とおっしゃる後継者もいるほどです。
少し話がそれますが、私は管理者研修において、経営者にとって価値ある管理者とは「経営者の分身」であり、そうなるために次の3つの行動をするように示唆しております。
(1)経営者の立場になって物事を考える(感情移入する)
(2)経営者の生い立ちを知る
(3)経営者とお互いの心情を己のものとできるまで議論する
(「派無し」ですね)
いずれも大切なことですが、特に(2)が重要です。よく「価値観が違う」といいますが、これには性格的な部分のみならず、過去の経験や生い立ちが非常に大きな影響を及ぼします。よって経営者の生い立ちを知ることは、分身たる幹部を育成することにも非常に役立つものなのです。このような観点においても「私の履歴書」は効果を発揮します。
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